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~ 注意書き ~



この話は、

Day after the trip- 奥州編 -

のIFネタとなっております。
舞台はBASARA界ですが、本家キャラは面白いほど出てきませんの
で、それを許容することの出来る方のみ、しばしお付き合い下さい。



Day after the trip
- 奥州編 -

●○●○● もしも、ツナ様がうっかりオリキャラと絡んでいたら ●○●○●
- ⑫ -
(サブタイ、山神様の捕らわれ人。お相手は黒脛巾組の忍ですが、諸事情により、
大分忍らしさを失っております。絡め手ならぬ『かわし手』を得意とする厄介な
タイプで、そこはかとなくエロい御仁です。例の如く本番はありませんが、オリ
キャラが相手となりますので、閲覧の際は充分お気を付け下さいませ)

 

 

どれだけ収穫しようとも頑迷に実り続ける畑と、いっそ異常とも言えるペースで
勢力を広げ続けている鶏一家(牛や豚といった哺乳類に関しては、流石にポコポ
コと生まれることはなかった。どうやら、『卵』という形で母体の外へと排出され
ぬ生き物は成長スピードが早まるだけらしい。家畜小屋にもスペースというもの
がある。こちらとしては願ってもないことだ)、そして自然界においての棲み分け
といったものを綺麗に無視して世の春を謳歌している魚介類を思えば、今ここで
一度や二度の食糧支援をすること自体は容易いことである。
数えで八つになるのだという喜作少年から聞いた話では、麓の村で生活している
のはおよそ八十人ほど―――――けして少なくはないが、途方に暮れるほどの数
という訳でもない。
かなりの財を注ぎ込んだのだと思われる奉納品へと手を付けてしまった手前、と
りあえず当座の食料だけでも提供することにした綱吉は、牡牛と牝牛、それぞれ
の背中へと沢の水でもって満たした大量の竹筒や、急いで脱穀した米、水がなく
ても調理することの出来るじゃがいもやさつまいもといった芋類(この状況では、
ほぼ間違いなく今回提供する分は全て村人の胃に納まることになるだろうが、痩
せた土地でも勝手に育つ飢饉指定植物であるため、どれだけがさばろうとも省く
ことは出来ない)、そして鮎の燻製と鮭とばもどき(この二つは加工の際に塩を多
く使っているため、塩分の補給はこれでバッチリである)などを乗せ、うっすら
と汗を掻いた額を自身の手の甲でもって拭った。
『こんなにいいの?ホントに?後で返せって言わない?』とでも言いたげに己の
袂を引く子供の頭をくしゃりと掻き混ぜ、その口の中へと飴玉を押し込んだ綱吉
は、彼の背負う寸胴型の編み籠の中へともぎ立ての蜜柑と桃、そして林檎を無造
作に放り込み、『早く戻りたいだろうけど、ちょっと待ってな』と囁いた。
そして、家の土壁へとその背を預けるようにしながら両の腕を組み、一連の遣り
取りを静観していた同居人の許へと向かう。

 


「―――――じゃあ、行って来ます。『囲い』から出れば喜作に案内してもらえる
とは言え、これだけの荷を背負わされた牛も一緒ですから、かなり時間が掛かる
と思います。日が暮れた時のために、一応ライトは持って行きますが……」


「……いや、今夜はそちらに泊めてもらった方がいい。彼の父親は村長らしいし、
一人分の寝床ぐらい融通してもらえるだろう。君が見た目通りの女子ではないと
いうことはわかっているつもりだけれど、それを差し置いても夜の山道は危険だ
からね。―――――でも、出来るだけ早く戻っておいで」

 


そう言って、垂衣が付いた市女笠を被せられる。
またいつの間にこんな物をと、同居人のあまりの多才ぶりに内心呆れながら角度
を調節した己に、単純に虫除けの他に、使用者の顔を隠す役目を担っている垂衣
をおもむろに除けながら、彼が真剣な面持ちで続けた。

 


「飢饉も、水不足も、確かに気の毒だとは思うけれど、あまり深入りしない方が
いい。山岳信仰から麓の人間が御山に立ち入ることを固く禁じていたとしても、
この状況で此処に食料があることを知ればどうなるか―――――聡い君のことだ
から、いちいち説明しなくてもわかるだろう?」


「……鍬だの鎌だので武装した村人が総出で押し掛けて来る可能性があると?」


「そういうことだよ。貰う物は貰ってしまった訳だし、今回は、俺も仕方がない
と思うけれどね。……来年の春に撒く籾すらないって話だし、全面的に援助して
あげられたらいいんだけど、俺は結局、御山に捕らわれているだけの人間だから」


「『囲い』の中の恩恵を享受してる俺達も、奪った分だけ返すことを心掛けながら
生活してますからねぇ。人間の都合で大量に木を切り倒して無理に畑を広げ、一
方的に搾取したら、それこそどんな目に遭わされるかわからない、か……」


「そうだね。彼等に、明日はないかもしれない。でも、支援物資を自分の懐へと
入れている連中をどうにかすれば、少なくともこの冬を越すことは出来るはずだ。
そういったあからさまな暴挙をいつまでも放置しておくほど伊達家は愚かでも非
情でもないし、この流れが正されるまで待つことが出来ないのであれば、周りの
村と情報を交換して、支援物資がしっかり行き渡っている土地の領主に直訴すれ
ばいい。そうすれば話が上に行くはずだ。―――――でも俺は、この『囲い』の
中で生きていくしかないから」

 


―――――あぁ、この人もまた不安なのだ。

一瞬躊躇い、けれどもすぐにその迷いを振り払った綱吉は、己の顔の傍にあった
彼の手を取り、小さく笑った。

 


「俺だって、今更外で生きようとは思いませんよ。柚子彦さんのその触り癖は正
直どうかと思いますけど、此処での生活は気に入ってますから」

 


その言葉を受け、彼はようやっと静かに笑った。

 


「―――――道中の無事を祈っているよ」


「ありがとうございます。諸々の世話全てを柚子彦さん一人でこなすのは大変だ
とは思いますが、俺が戻るまでこらえて下さい」

 


両手でもって包んだ彼の手を念押しするかのように軽く叩いた綱吉は、先の言い
付けを守って大人しくしていた喜作(なんだその顔。徳用袋の中に入っていた程
度の飴がそこまで美味いか。畜生、可愛いじゃねぇか)の許へと戻り、目線を合
わせるようにして腰を落とした。

 


「これから山を下りるけど、もう一度だけ確認させてほしい。此処に来た時は意
識が朦朧としていてあまり覚えてないと思うけど、麓まで、道らしい道はないん
だ。牛も居ることだし、なるべく傾斜の緩やかな場所を通るつもりだけど、足下
には充分気を付けて」


「わかった」


「忘れることは出来ないと思うけど、村の誰に聞かれても、此処のことを詳しく
話したら駄目だよ」


「どうして?」


「山神様が、底抜けに優しい存在ではないからさ」


「……神様は姉ちゃん達だろ?姉ちゃんは優しいよ」


「俺は人間だよ。この山に生かされてる、ちっぽけな人間だ」

 


難しい顔をした彼であったが、しばし思案する素振りを見せた後、やがて合点が
いったように声を上げ、場違いなほど明るく続けた。

 


「そうか、神様は人間に正体を知られちゃいけないんだな。大丈夫、俺約束守れ
るよ。姉ちゃんが人間じゃなくて本当は神様だってことも、見たことがある食べ
物も見たことがない食べ物もとにかくたくさんあるこの家の場所も、皆には絶対
話さないよ!」

 

 

 


……うん、なんつーかもう、なんだっていいよ。

 

 

 

 

 

END

 

一言 > 垣根なしの善意は、必ずしもハッピーエンドに繋がる訳ではないとい
う話。与えられること、そして奪うことに慣れた人間ほど怖ろしいものはありま
せん。ツナ様も柚子彦さんも当然ソレを御存知です。まぁ、もっとも、なんだか
んだで『囲い』には目的意識を持って進んでも通り抜けることの出来ない、攪乱
と目晦ましの効果があると思いますが。
 

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