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~ 注意書き ~



この話は、

Day after the trip- 奥州編 -

のIFネタとなっております。
舞台はBASARA界ですが、本家キャラは面白いほど出てきませんの
で、それを許容することの出来る方のみ、しばしお付き合い下さい。



Day after the trip
- 奥州編 -
●○●○● もしも、ツナ様がうっかりオリキャラと絡んでいたら ●○●○●
- ⑬ -
(サブタイ、山神様の捕らわれ人。お相手は黒脛巾組の忍ですが、諸事情により、
大分忍らしさを失っております。絡め手ならぬ『かわし手』を得意とする厄介な
タイプで、そこはかとなくエロい御仁です。例の如く本番はありませんが、オリ
キャラが相手となりますので、閲覧の際は充分お気を付け下さいませ)
 
 
当初の見立て通り、麓の村に到着したのは日が落ちてからであった。
日々の糧すら満足に得られぬ貧しい農村に蝋燭を買う余分な金などあるはずもな
く、不規則に建てられた粗末な家々から灯りが洩れることはない。
プラネタリウムも真っ青な満天の星空はやけに明るく、影を作りはしても雨を降
らすことのない嫌味な雲が申し訳程度に薄く棚引いている。
生まれ育った場所よりも高い緯度にあるこの土地の空気は、まだ秋であるにも関
わらず驚くほど冷たく、また乾いており、月明かりに照らし出された地面には雑
草すら生えていなかった。
土地全体がチート畑と化している『囲い』を出てからの道中で一応の覚悟は出来
ていたとは言え、話に聞くのと実際に目にするのとではまるで違う。
けして深入りはすまいと自らの心に決め、同居人とその意思を確認したはずなの
だが、非情であろうとする頭とはまた別の部分の琴線に触れ、思わず顔を顰めて
しまった。
 

「姉ちゃん、こっちだよ。アレが俺の家!」

「うん、わかった。とりあえず喜作、今は静かに」
 

興奮を隠し切れぬ子供の傍らで、自身の口許近くで人差し指を立てて見せた綱吉
は、竹垣でもって敷地を囲んでいる、他の家々よりも大きな家屋を遅ればせなが
ら確認し、ふと安堵の息を洩らした。
今回提供することとなる水と食料を、具体的にどうするか―――――餓えた妻子
のために自らの懐へと抱え込むか、村長としての責を全うすべく村人へと公平に
分配するかは彼の父親次第であるが、この場を仕切る者が居ない状況で村人に囲
まれるのは不味い。
どれだけ只人だと言い含めようとも華やかな着物を纏っているだけの小娘を本気
で山神様だと信じている喜作は、そんな己の一挙一動をいちいち重く受け止め、
先ほど己がそうしたように自らの口許近くで人差し指を立て、『わかった、静かに
するよ。ごめんなさい』と、深刻な顔をしながら囁くように言った。
 
何この子、スゲェ可愛いんですけど。
子供好きという訳ではないが、居候の影響で年少者に対して絆され易くなってい
る綱吉はうっかり胸を高鳴らせ、胸の高さにある頭をぎゅむっと抱き込んだ。
 

「ね、姉ちゃん………っ!?」

「……うん、そーゆー素直なとこはお前の美徳だよな。どうせならそのまま育て
よ。好きな子苛めるような捻くれ者よりそっちのが断然良いぞ」
 

抱き込んだ頭が唐突にその動きを止めたことから察するに、どうやら好きな子云
々の足りで心当たりがありそうだったが、今後に期待するとして心の傷を抉るよ
うな真似はしないでおく。
そうこうしているうちに彼の自宅へと到着し、敷地へと足を踏み入れてからの最
後の十数メートルを小走りで移動して引き戸へと飛び付いた喜作が、古びた戸を
こつこつと叩き、『父ちゃん、母ちゃん!俺だよ、喜作だよっ』と、出来るだけ潜
めた声でもって呼び掛けた。
すると、ほどなくして、何かが続け様に倒れるような音と慌しい足音が聞こえ、
つっかえ棒の類いなどは端から存在してはいないらしい引き戸が勢い良く開け放
される。
戸口に立っていたのは、昨今の水不足のせいで清々と洗濯することが出来ずに薄
汚れたままになっている着物の乱れを直す余裕すらなかったらしい、酷く草臥れ
た中年の男であった。
 

「喜作……っ!」
 

酷暑となった今年の夏の厳しさを体現するかのように浅黒い手が、痩せ細った我
が子の身体を掻き抱く。
 

「こ、…の大馬鹿者がっ。お前、今まで何してたんだ!昨日の夕方に『御山に入
って行くのを見た』って平八んとこのたずから聞いて、散々探したんだぞ!?御
山には熊が居るし、野犬だって居る、もう駄目かと―――――怪我はないか、父
ちゃんに見せてみろっ」

「大丈夫だよ、父ちゃん。それより花は?」

「あ、あぁ、今のところ変わりはないぞ。泣き声が小さくなってきたのが心配だ
が―――――喜作、そちらの方は?」
 

ようやっと第三者の存在に気付き、感動の再会を果たしたばかりの息子をさり気
なく背後へと押し遣りながら姿勢を正した村長に、綱吉は市女笠を外し、前髪を
煩わしげに掻き上げてから軽く頭を下げた。
月明かりの下では、己ほどの五感を持たずとも互いの顔がよく見える―――――
かちりと目が合った瞬間、何やら彼は激しく動揺し、傍らに立たせた息子を縋る
ように見下ろした。
 

「俺、どうしても母ちゃんに何か食べてもらいたくて、それで御山に入ったんだ。
でも、目ぼしい物は何も見付けられないまま途中で動けなくなって、そのまま倒
れちまったんだ。この姉ちゃんは、そんな俺を拾ってくれた奇特な人だよ」

「な、なんだって……っ!?ありがとうございます!!本当に、なんとお礼を申
し上げたらいいかっ」
 

これでもかと言わんばかりに目を丸くし、慌てて頭を下げた父親に、無邪気な息
子が更に追い討ちを掛ける。
 

「それだけじゃない!冷たくて綺麗な水をたんと飲ませてくれて、卵と米が馬鹿
みたいに入った粥まで食わせてくれたんだ!!それに、ほら!!蜜柑や桃、偉い
人達が持ってるような観賞用の小さな林檎じゃなくて、ちゃんと食べられる林檎
もこんなに持たせてくれたんだ!!蜜柑は少し酸っぱかったけど、どれも甘くて
美味いんだぜ!!!」
 

背から下ろした籠の中身を見せられて、村長は目を白黒させた。
しかし、あまり強くはなさそうな心臓に余計な負担を掛けるようで悪いが、生憎、
苦労して運んで来た支援物資はそれだけではない。
綱吉は苦笑し、いっそ気の毒に思えるほど動揺している村長その人へと、努めて
穏やかな調子で語り掛けた。
 

「夜分遅くに押し掛けました無作法を、どうかお許し下さい。この村が、本来あ
るべき支援を受けることが出来ずに餓えと渇きに苦しんでいると聞きましたもの
で、少しでもお力になれればと思いまして」

「は、ぁ……え?あ、あのっ」

「茶々と申します。この着物の柄に、心当たりはありますでしょうか?」

「……、あっ!」
 
 

 

合点がいったように声を上げた彼に、『その代価として用意した物ですので、お気
になさらないで下さい』と続けたが、呆然とすることしか出来ずにいる彼の耳が
その言葉を拾えているかどうかは定かではなかった。
 
 
 
 
 
END
 
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