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内容はタイトル通り。

ありがちな世界観となっている関係で馴染みもあるかと思いますが、あくまで
オリジではなく他作品へのトリップを求められる方は、このまま何も言わずに
ページを戻して下さいませー。



ナルツナ子 IN RPG風異世界
- ⑤ -
 
 
挙動不審な受付嬢の手を借りて登録手続きを終えた後、綱吉とナルトの二人が早
速手に取った依頼書は、『町の便利屋さん』的な内容が大半を占めるFランクの
ものではなく、Eランクのものであった。
採集対象は『シギル』と呼ばれる植物で、夕暮れ時の西の空を思わせる鮮やかな
茜が一際目を引く、鑑賞に堪えうる美しい花だ。
ギルドの待合室に置かれていた植物図鑑で確認してみたところ、その色味こそ違
うもののシクラメンによく似た外観で、なんでも、麻酔の原材料としてそこそこ
の値で取り引きされているらしい。
実際、この街でも取り引きの実績があるにも関わらず、今回、依頼人がわざわざ
ギルドを通して依頼を出したのは、採集対象の群生地で発生した山火事のせいで
品物自体が市場に出なくなってしまったからなのだそうだ。
花と葉はもちろんのこと、根まで綺麗に掘り出した状態で、

一株につき報酬は銀貨一枚。
三株纏めて持ち帰れば銀貨五枚とする。
常時依頼のため、期限はなし。
 
動植物の捕獲や採集はEランクに分類されているため内容としては妥当であった
が、駆け出し冒険者にとっては魅力的な条件の割りに依頼達成時にギルドから与
えられるポイントがさり気に高いのは、この辺りでシギルの生育地として知られ
る唯一の場所が、比較的危険性の低い魔獣(冷静に考えるとおかしな表現である
が、一口に魔獣と言っても、人間様が愛して止まぬ毛皮製品へと変貌を遂げる大
型の鼠から果ては街一つ余裕で滅ぼすドラゴンまで存在するのだから、あながち
間違いでもない)が棲息する森の入り口付近にあるからだろう。
 

「Eランクに昇格するには100ポイント必要で、今回の依頼を成功させれば2
5ポイント貰えるんですよね。更に言うと、俺達は一つ上のランクの依頼を受け
た訳ですから、達成すれば最終的には50ポイントになると。うーん、こんなに
簡単でいいんですかねぇ……」
 

柔らかな木漏れ日が降り注ぐ場所にて膝を折った綱吉の、貴重な植物であるはず
のシギルをなんの有り難みもなくずっこずっこと引き抜きながらの言葉に、大木
の幹へとその背を預けるようにして両の腕を組み、一連の作業を黙したまま見守
っていたナルトが、さも大儀そうに苦無を放った。
おざなりとしか思えぬ対応の割りには、その鋭利な切っ先が生み出す風切り音は
いっそ見事なもので、僅かに遅れて茂みの中から飛び出してきた兎型の魔獣を一
発で仕留めてのけた。
綱吉がシギルの採集作業を開始してから同じ行為が幾度となく繰り返されている
ため、辺り一帯には、すでに多くの小型の魔獣の死体がドロップ品と共に無造作
に転がされている―――――血の匂いに誘われて、いつ他の大型の魔獣が現れて
もおかしくはない状況であるが、しかし、綱吉もナルトも危機感の類いは欠片も
抱いてはいなかった。
 

「あっさり昇格すんのが嫌だったら、大人しくFランクの依頼受けてりゃいいの
に……」

「確かにその通りですけど、下忍の任務でもあるまいし、今更くだらない用事で
他人様に扱き使われるナルトさんなんて想像出来なかったもので」

「……うん、それは俺も想像出来ねーわ」

「ある種のホラーですよね。だからそこは気にしちゃいけません。昇格自体はむ
しろおめでたいことな訳ですし。あ、そこらに転がってる連中の毛皮、剥いでお
いて下さいね。今回の依頼とは無関係ですけど、生活資金の足しにはなるでしょ
う。ドロップ品の回収も忘れずに」

「あぁ、そういやギルドん中に買い取りコーナーがあったな。了解。肉はどうす
る?」

「うーん。別に野宿する予定はありませんから、適当に埋めればいいんじゃない
ですかね。充分食べられそうですけど、手土産として持って帰って宿の女将さん
に預けたところで、メジャーな食材でなけりゃどのみち始末しなきゃいけません
よ」

「……一纏めにして土遁で埋めるか」

「それが妥当だと思います」
 

うんうんと頷いた綱吉は、根の部分に付着していた土を綺麗に払い落としたシギ
ルを三株ずつに分けて適当な蔓で括り、出発前にギルドの傍にある店で購入した
皮袋の中へとこれまたなんの有り難みもなく放り込んだ。
その数、合わせて十五株―――――生育地とは言え、山火事で消失した場所には
大分劣るのかたいした数はなかったことを考えると、まずまずの成果なのではな
かろうか。
年寄り臭い掛け声と共に腰を上げ、直に植物に触れたせいですっかり青臭くなっ
てしまった手を洗うべく、『風』に特化してはいるが基本的には万能であるナルト
に水遁でもって水を出してもらおうとした時であった―――――綱吉はふと顔を
上げ、最上の琥珀を思わせる瞳へと思案の色を灯しながらある方向へと視線を向
けた。
そんな己に気付いたナルトが、解体作業の手を止め、訝しげに声を掛けてくる。
 

「―――――ツナ?」

「……はい」

「今のところ俺の五感に訴えてくるもんはねーんだけど、何か感じたのか?」

「……えぇ、まぁ。と言っても、危険が差し迫ってるとかそんなんじゃないんで
安心して下さい。ただ、…―――――うーん、なんだろ。スゲェ気になる」
 

手を洗うことを後回しにした綱吉は、依頼品が入った皮袋をナルトの傍へと置い
た上で、つい先程兎型の魔獣が飛び出して来たばかりの茂みへと足を進めた。
そして、再び膝を折り、躑躅によく似た花が咲き誇る低木の下を躊躇うことなく
掘り返し始める。
深さにして6、7センチほど掘ったところで発見したのは、根が出ている部分だ
けが薄紅色に色付いている、全体的に黄味掛かった球根であった。
近くを掘り返してみれば、ほどなくして同じ物がごろごろと見付かり、最終的に
は七個の球根が日の目を浴びることとなった。
無言のまま瞬きを繰り返した綱吉はことりと首を傾げたが、しかし半ば強引に自
身の思考の末尾へとピリオドを打ち、球根全てを抱えてナルトの許へと戻った。
ファンシーなにんにくを手に帰還を果たした己に、ナルトが口角を下げる。
 

「……なんだソレ。そんなん依頼にあったっけ?ってか、」

「そうなんです、植物図鑑にもこんなん載ってませんでした。持ち出しが禁止さ
れてる分にはまだ目を通してませんから、とりあえずギルドに持って帰ればわか
ると思いますが……なんか、妙に気になるんですよねぇ」

「悪い感じはしねーんだろ?ならいーじゃん。特別なもんじゃなくても、育てて
みたら意外と綺麗な花が咲くかもしれないし」

「あぁ、ナルトさん花育てるの好きですもんね。宿暮らしの間は無理かもしれま
せんけど、駄目元でジネットさんにお願いしてみましょうか」
 
 
 

―――――そのささやかな夢が早々に叶ってしまう可能性については、さしもの
二人も、この時点ではまだ欠片も気付いてはいなかった。
 
 
 
 
 
END
 
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