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内容はタイトル通り。

ありがちな世界観となっている関係で馴染みもあるかと思いますが、あくまで
オリジではなく他作品へのトリップを求められる方は、このまま何も言わずに
ページを戻して下さいませー。



ナルツナ子 IN RPG風異世界
- ⑦ -
 
 
リコリスの球根―――――またの名を『妖精の卵(フェアリーエッグ)』。
幾つもの奇跡が重ならなければ出遭うことは叶わぬと言われている、薬学に携わ
る人間の前へと持ち出せば卒倒してしまうほど貴重な代物である。
古の大魔術師がこの素材を使って万能薬の製造に成功したという話は、後世まで
残された資料とそれに纏わる逸話によって公式に認められている。
ただし、肝心の製造法はと言えば一部が伝えられているだけで、その技術の大半
は失われたままである。
十年周期で、虹色の光沢を纏う半透明の花弁が目にも鮮やかな花を咲かせ、その
花は『妖精の羽(フェアリーウィング)』と呼ばれている。
その花を煎じると魔力啓発剤になる。
簡単に言ってしまえば、魔術適性がない人間であっても魔術が使うことが出来る
ほどまでに魔力が上がり、もともと適性がある人間に至っては、魔力容量が飛躍
的に大きくなると同時に属性も新たに増える。
しかし、記録として残されているリコリスの発見場所は火山帯であったり北国で
あったり、またその時期もバラバラであるため、生育条件はいまだわからぬまま
である。

予約を入れさえすれば高ランク保持者であれば誰でも使用することの出来る多目
的室よりも遥かに豪華だと思われる部屋へと引き摺り込まれた後、三十代半ばと
いった年頃のイケメンなギルドマスターから懇切丁寧に説明された内容に、紅茶
によく似た風味のお茶でもって満たされている白磁のティーカップを傾けながら、
綱吉はちらと傍らの婚約者の手許を見やった。
始めにストレートのまま飲んで全体の嵩を減らした上で、次から次へと放り込ま
れる角砂糖角砂糖角砂糖……早々に飽和状態に達したティーカップの底には溶け
残った砂糖がこずんでいたが、しかし、ウェルカムティーで視覚テロを引き起こ
した彼の御尊顔はと言えば、反面どこまでも晴れやかだ。
じゃりじゃりなどという非常識な音を立てながら嬉々としてティースプーンを回
し続けるナルトに、ティーカップを受け皿の上へと戻すことで自由になった利き
手の指でもって目頭を揉んだ綱吉は、『コーヒーはブラック派、紅茶もストレート
派じゃありませんでしたっけ?』と尋ねた。
 

「前者については異論はない。だけど、紅茶に関しては茶請けの有無によるな」

「……体形変わる程度で済めばまだマシですかね。とにかく、ナルトさん一人の
身体じゃないんですから気を付けて下さいね」

「善処します?」

「なんで疑問形なんですか!あぁ、もう、傍で見てる俺の方が気分悪くなってき
たっ」

「―――――おい、聞いてるか?」
 

多分の苛立ちを孕みながらもどこか内向的な声音に、綱吉とナルトの二人は一つ
のソファーに並んで腰掛けた状態で『もちろん』と頷いて見せた。
 

「コイツが掘り出した球根が伝説級の代物だったんでしょう?大丈夫、ちゃんと
聞いてましたよ」

「祝い状でも認めましょうか?それにしても、裏が取れてない上に肝心の製造法
が正しく伝わってないんじゃ、万能薬や魔力啓発剤なんて夢物語ですね。育て方
がわからないってことはつまるところ増やし方もわからないってことですし、サ
ンプルとしての価値しかないんじゃブッチャケどうしようもないって言うか」

「『妖精の羽』の異名を持つ花にはすこぶる興味があるんだけどなぁ。……蕾を付
けるのは十年周期だって話だし、当たり年でない限りお目には掛かれないか。綱
吉さん、どうするよ」

「取り引き材料になりそうなんで手許に残しておく方向で」

「ま、それが妥当だな。という訳でラザールさん、ソレ返して下さい」

「……なぜ?」

「や、『なぜ』も何も……」
 

ティーカップの中身を一気に呷ったナルトは、空になったそれをテーブルの上へ
と戻し、酷く横柄な態度で脚を組み替えて見せた。
フードを外しているせいで露わになっている金糸の髪がさらりと揺れ、真夏特有
の、あの突き抜ける空にも似た青が笑みの形に細められる。
 

「俺等は別に、リコリスの球根をそちらに提供することが目的じゃありませんで
したから。植物図鑑にも記載されていなかったソレの正体を知りたくてエレナ嬢
に声を掛けただけで、所有権を放棄したつもりはありませんよ。交渉に応じてく
れ、と言うのならわかりますが……」

「もちろん金は用意する!……いや、君の言う通りこう申し出るのが先か。この
リコリス球根、是非とも我々に譲ってほしい。この通りだ。それを認めてくれる
のなら、早速交渉に移りたい」
 

男らしく豪快に開いた膝の上へと両の手を乗せながら勢い良く頭を下げてのけた
ギルドマスターに、その口許へと相も変わらず物騒な笑みを湛えたまま、ナルト
が己に視線だけで『どうする?』と尋ねてきた。
どうでもいいけど、こちらにも頭を下げる文化があるんですね。
 

「……そう、ですねぇ。まぁ、俺等にはラザールさんほどの情熱はありませんし、
別に構いませんけど」

「ありがとう、恩に着る!5フランならすぐに用意出来るんだが」
 

金貨五枚、日本円にして五百万円。
実際の価値はどうであれ、冒険者生活初日の新人が相手であることを考慮すれば
割かしまともに取り合ってくれているのではないかと思ったが、坊ちゃん育ちの
くせに金銭面に関して異様にシビアなナルトはそうは思わなかったらしい。
中性的な、けれどもけして女々しくはない美貌見せ付けるかのようにを歪め、話
にならぬと言わんばかりに鼻を鳴らして哂った。
 

「見掛け通りの若造小娘だと思って馬鹿にしちゃいませんか。市場に出回ってな
いもんだから相場は引き合いに出せませんが、いくらなんでも5フランはないで
しょう。長年積み重ねてきた知識や経験、また確かな技術を持った偉大な先達、
そして何より未来ある子供達の命を救う足掛かりになるかもしれない代物ですよ
?最低でも100、それ以上はまけられません」

「おいおい、そりゃぼったくりもいいところだ!」
 

悲鳴じみた声を上げたラザールに、ナルトは猶も続けた。
 

「そうですね、少し視点を変えてみましょうか。人の命に優劣はありませんが、
必ずしも等価だとは限りません。その命の有無が国民生活に多大な影響を及ぼす
人物……そうだな、たとえばこの国の王が今まさにその人生に幕を下ろそうとし
ていたとして、その命を金貨五枚程度で買い叩くことが出来るとしたら、家族や
本人はどう思うでしょうね?単純に喜びますか?」

「そ、れは―――――、…だ、だが、多くの国民に低価格で提供するのは何も悪
いことではないだろう。そもそも、物になるかどうかすらわからない代物なんだ。
そんな物のためにそこまで出せる訳ないだろうっ」

「何言ってんですか。きょとんとしてる俺等の前で握り拳を作り、リコリスの希
少性とそれを原材料とした薬の有効性について熱く語って下ったのは他でもない
ギルドマスター、貴方でしょう。運良く薬の製造に成功したとして、それを具体
的にどの程度の値段で売りに出すかは権利を持つ人間の裁量によりますから話は
別です。安価で提供すれば国民は喜ぶでしょうし、法外な値段であっても購入希
望者はいくらでも居るでしょう。そこまで口出しする気はありませんよ。……散々
ケチつけてくれやがりましたが、どうせリコリスを手に入れたアンタには諸々の
優遇措置が取られんだろ?俺等との取り引きに使う金だって、然るべきところか
ら経費で落ちるはずだ。何を喚く必要がある」
 

その言葉を受けて僅かに強張った厚い肩が、全てを肯定していた。
ナルトは駄目押し的な笑みを浮かべ、もはや虚勢を張ることすら出来なくなって
いる男へと最終勧告を下した。
 
 
 

「ラザールさん、俺等は何も理不尽な要求をしている訳じゃない。真っ当な取り
引きを望んでるんだ。―――――さぁ、アンタはこの大きな可能性を秘めた球根
にどれだけの価値を見出した?」
 
 
 
 
 
END
 
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