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~ 注意書き ~



この話は、

Day after the trip- 奥州編 -

のIFネタとなっております。
舞台はBASARA界ですが、本家キャラは面白いほど出てきませんの
で、それを許容することの出来る方のみ、しばしお付き合い下さい。



Day after the trip
- 奥州編 -

●○●○● もしも、ツナ様がうっかりオリキャラと絡んでいたら ●○●○●
- ⑯ -
(サブタイ、山神様の捕らわれ人。お相手は黒脛巾組の忍ですが、諸事情により、
大分忍らしさを失っております。絡め手ならぬ『かわし手』を得意とする厄介な
タイプで、そこはかとなくエロい御仁です。例の如く本番はありませんが、オリ
キャラが相手となりますので、閲覧の際は充分お気を付け下さいませ)

 

 

「姉ちゃん!」

 


可愛げのない子供達に苦労させられている小学校教諭が聞けば、感極まって口許
を押さえ、嗚咽を堪えそうな溌剌とした声と共に突進して来た人物に、綱吉は粥
が入ったお椀をとっさに顔の高さにまで掲げた。
見れば、左脇へと張り付いているのは満面の笑みを浮かべた喜作で、細い腕でも
ってしっかと己の腰を抱き込んだまま、『一緒に居てもいい?』と小首を傾げて見
せた。
繰り返すが、己は母のように無類の子供好きという訳ではない。
身内認定していない子供が目の前で泣き叫んでいたところで痛くも痒くもないし、
謂れのない暴力の的となっていれば流石に助けはするが、それでも、無闇矢鱈と
同情することもない―――――けれども、本人の中でまだ男女の括りが曖昧にな
っているということもあり、欠片もスレていない子供に純粋に慕われれば、絆さ
れもする。
一日二日の食事で肉が付くことはないが、肌の色艶は他の村人と比べ格段に良く
なった喜作の頭を撫でた綱吉は、遅ればせながら彼の手にお椀がないことに気付
き、はたとその動きを止めた。
明け透けに言ってしまえば食料品の運搬役でしかない己ですら、『茶々様から譲っ
て頂きました食料ですから、あまり大きなことは言えませんが、人間、半日も何
も食べなければどうしたって腹は空くものですよ』などという言葉と共に、半ば
強引にお椀を手渡されたのだ。
いくら『囲い』の中で食事に有り付けたとは言え、育て盛り食べ盛りの子供がお
預けを喰らうとは考えられなかった。

 


「……喜作、粥は?」

 


問うと、彼は少しだけ身体を離し、バツが悪そうに笑った。

 


「え、と……最初、母ちゃんにあげようとしたんだけど、『喜作の物でしょう。私
はもう充分頂いたから、ソレは喜作が食べなさい』って、突き返されちゃって。
白い米で作った粥が驚くほど美味いってのはわかってたけど、なんでか、どうし
ても食う気になれなかったんだ」


「うん」


「姉ちゃんを探してそこらをうろついてたら、…た、たずの妹がね、お椀落とし
て、ぐしぐし泣いてたんだ。そうしたらたずの奴、自分だって腹減ってんのに自
分の分の粥を妹に食わせ始めたから、俺呆れちゃってさ。『お前馬鹿だろ』って言
ったんだ。いつもは、アイツ噛み付いてくるんだぜ?それなのに今日は泣きそう
になったから、なんか俺まで苦しくなって、……俺の分押し付けて、きた」


「……おやまぁ」

 


コレはアレですな。
青い春の到来、それ以外の何物でもないでしょう。

もとより素質はあったものの、忠告一つで一端の男へと成長したらしい喜作を前
に、その可憐な口許を僅かに綻ばせた綱吉は、『そうか、お前いいことしたなぁ』
と言いながら彼の頭を掻き回した。

 


「そういうことなら、お前は俺の分を食べなさい。昼過ぎに飴をやってから何も
食べてないだろ。俺はいいから」


「え、で、でも、コレは姉ちゃんのだし……」

 


そう言いつつも、彼の視線は己の右手にあるお椀に釘付けだ。
『いやぁ、家に戻ればいくらでも食べられるし?』などという言葉は禁句だと重々
承知しているため、一口だけ食べてから『うん、美味い』と笑った綱吉は、きょ
ときょととそれはそれは居心地が悪そうに周囲へと目をやっている彼に、そのお
椀を手渡した。

 


「冷めてて悪いけど」


「……あ、ありがとう、姉ちゃん」

 


頬を赤らめた未来のイケメンを村の子供達の輪へと送り出した綱吉は、さり気な
く広場から離れ、畑がある方へと足を向けた。
なんだかんだで空は白み、あと一時間ほどで日が昇るであろう時間帯―――――
持参したライトを使わずとも、畑の様子を確認することは容易い。
稲刈りが済んだ後の畑には一応種を蒔いた痕跡が見受けられたが、そもそも人間
用の飲料水すら確保することか出来ずにいるのだから、作物が育つはずもない。
村の備蓄もすでになく、御山の入り口で採ることが出来る野草や茸、時折人里に
下りてくる野うさぎや猪を捕らえ、なんとか食い繋いできたとのこと。
―――――それも、先日、胃が消化することが出来る物は全て採り尽してしまっ
たため、ついに叶わなくなった。
本当に、気の毒ではあるのだが―――――。

 


「……参ったなぁ」

 


喜作の、その母親の、そして一家の大黒柱としての責だけではなく村長としての
重責をも負う父親の泣き顔が脳裏に浮かび、消える。
ふと空を見上げれば、村の上空を一羽の鷹が旋回していて、獲物が居る訳でもな
いのに、何を思ったかこちらへと降下してきた。
その足に白い何かが括り付けてあることに気付いた綱吉は、懐に入れてあった手
拭いを左腕の肘下部分へと手早く巻き付け、己の手前で二、三度大きく羽ばたく
ことで滑空の際の勢いを殺した鷹を迎える。
そして、その鷹が同居人が密かに調教していたソレだということを思い出すと、
足に括り付けられていた物へと躊躇うことなく手を伸ばした。
短冊状に折り畳まれていたのは、文であった。


御山に棲み付いている鷹だから遠出はしてくれないけれど、飛ばす先が麓の村で、
そこに君が居るのなら、役目を果たしてくれると思って。

久々の一人寝は、思ったよりも堪えたよ。

用が済んだら、早く戻っておいで。


そういった内容の文面を見て、『あぁ』と、小さく声を洩らす。

 


「―――――そうだ、帰ろう。帰らなきゃ。柚子彦さんが、待ってる」

 

 

 


帰ろう。帰ろう。
全ては、それからだ。

 

 

 

 

 

END

 

一言 > 柚子彦さんにも喜作少年にも、なんだかんだで絆されているツナ様は、
この後、早々に御山へと引き上げます。炊き出しの間のことなので、村人はツナ
様が煙のように姿を消したとしか思いません。『あぁ、やっぱりあの御方は山神様
だったんだ!』……こうして勘違いは広がっていく訳です。
 

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