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~ 注意書き ~



この話は、

Day after the trip- 奥州編 -

のIFネタとなっております。
舞台はBASARA界ですが、本家キャラは面白いほど出てきませんの
で、それを許容することの出来る方のみ、しばしお付き合い下さい。



Day after the trip
- 奥州編 -
●○●○● もしも、ツナ様がうっかりオリキャラと絡んでいたら ●○●○●
- ⑭ -
(サブタイ、山神様の捕らわれ人。お相手は黒脛巾組の忍ですが、諸事情により、
大分忍らしさを失っております。絡め手ならぬ『かわし手』を得意とする厄介な
タイプで、そこはかとなくエロい御仁です。例の如く本番はありませんが、オリ
キャラが相手となりますので、閲覧の際は充分お気を付け下さいませ)
 
 
牛の背に乗せられたままになっている積荷を見て、村長は絶句した。
食料の類いは、細縄で一纏めにした鮎の燻製以外は全て、麻の大袋の中にこれで
もかと言わんばかりに詰め込んであるため、脱穀しただけで籾殻までは外してい
ない米や比較的日持ちのするイモ類の姿をその目で直に確認することは出来ぬだ
ろうが、それでも、今回苦労して運んで来たそれらが、たとえ一時のことであろ
うとも餓えに苦しむ村人の腹を満たすことが出来るだけの量であることは一目で
わかったらしい。
常であればしんと静まり返っているはずの時間帯に、声を潜める余裕もない感動
の再会劇は些か配慮に欠けたのだろう―――――この騒ぎを聞き付け、各々松明
を掲げながら集まって来た村人が、竹垣の外へと更に人垣を作りながら『た、食
べ物だ!』だの『あの娘っ子は誰だ?』だの『もしかしたら、領主様が遣わせて
下さった使者の方かもしれないよ』だのとざわついている。
このまま放置しておけば、確実に奪い合いに発展するだろう。
思わず渋面を作ってしまったこちらを置いて勝手にヒートアップしていく彼等を
溜息混じりに眺めていると、人垣を掻き分けて現れた一人の男が、誰にも咎めら
れることなく村長宅の敷地へと踏み込んで来た。
 

「兄貴!村の連中のことはちゃんと見てるから、とりあえずその娘さんを中に入
れたらどうだ?」
 

実弟なのか、はたまた義弟なのかはともかくとして、どうやら、村長の身内であ
ることは確からしい。
その申し出に短く礼を述べた村長は、『すみません、気が利きませんで。お疲れで
しょう、どうぞ中へ』と言い、快く己を迎え入れてくれた。
村長宅には村の寄合所としての顔もあるのか、土間に面した囲炉裏部屋の横には
薄い木戸でもって仕切ることが出来る六畳間があり、その更に奥にもう幾つか小
部屋があるようだった。
遅ればせながら起き出してきた母親が、もはや壁伝いにしか歩くことが出来ぬく
せに、息子を一度ひしと抱き締めてから『ようこそお越し下さいました。白湯し
かお出し出来ませんが、どうぞお寛ぎ下さい』と言い、その役割をほとんど果た
していない水瓶の中へと乾いた柄杓を入れようとしたため、綱吉はすかさず止め
に入る。
 

「あぁ、お構いなく。そんなことよりもまず御自分の身体を大事にして下さい」

「ぬい、この御方の仰る通りだ。本当は起きているのも辛いはずだぞ、お前は休
んでいなさい。必要であれば俺が動くから」

「……い、いえ、喜作の命の恩人であらせられる御方を前にして一人臥せるよう
な真似など出ません。お邪魔でなければ、どうかこの場に留め置き下さいませ」

「え、と……ぬい、さん?そんなに畏まらないで下さい。私には、貴女にそこま
で言わせるほどの身分などありませんから。この場に留まるかどうかも、貴女が
それで宜しければ私は構いませんよ」
 

おぼつかぬ足取りで土間から上がった彼女が、村長から少し離れた場所へとゆっ
くりと腰を下ろしたのを確認してから、自らもまた囲炉裏の傍へと腰を下ろし、
綱吉は改めて口を開いた。
 

「同じ説明を繰り返すことになりますが、外にある水と食料はお供え物の代価と
して用意させて頂いた物です。道らしい道がない上、牛も一緒でしたので運搬に
は手間取りましたが―――――……お役に立てましたでしょうか」

「は、はい!それはもう……茶々様は、御山にお住まいなのですか?」
 

御山全体を『神域』と捉える彼等の常識からしてみれば、御山に只人が住み着い
ていること自体、考えられぬ話なのだろう―――――多分の戸惑いの中に僅かな
猜疑心を垣間見せながらの問いに、肯定も否定もせずに静かに微笑むと、『父ちゃ
ん、父ちゃん!』と注意を引きながら村長の右半身へと張り付いた喜作が、訳知
り顔で耳打ちした。
どうやら、『囲い』の中での出来事と、あるはずもない己の素性を簡潔に説明した
ようで、夢物語じみた話を聞かされた村長はと言えば当然のことながら妙な顔を
したが、今回、いっそ絶望的とも言えるこの状況下で持ち込んだ物資の非常識な
内容と量がその信憑性を高めたらしく、結局は納得したらしい。
とりあえず、山神様説だけはキッチリ否定しておかなければ。
 

「粗雑な物言い、失礼します。―――――俺は人間ですよ」

「人間?…、人間……えぇ、そうでしょう。そうでしょうとも」
 

……アンタ等はこんなんが『山神様』とやらで本当にいいのか。
言うだけ無駄だと、早々に見切りを付けた綱吉は、ともすれば引き攣りそうにな
る口許を懸命に取り繕いながら支援物資の話に戻った。
 

「今回、こういった形で提供しました物資は、あくまで貴方が奉納して下さった
お供え物の代価として用意した物ですので、こちらのお宅で消費するかどうかは
貴方達の判断に任せます。……まぁ、もっとも、今更『この積荷は村へ向けての
支援物資ではない』と突っ撥ねたところで、村の方々は納得することはないでし
ょうけれど」

「……お恥ずかしい限りです」

「なんのなんの。生きる意志を強く持ち続けるというのは、何も悪いことではあ
りませんよ」

「そう言って頂けると、幾分か気が楽になります。今回、用意して頂きました物
は、村人全てに平等に分配したいと思います」

「そうですか。―――――あの竹の中身は水です。その他に、米、いもなど、比
較的腹持ちする物を用意してみました。米に関しては銘々が満足に食べることが
出来るほどの量はありませんが、炊き出しには使えるかと。あと、そのいもに関
してですが、わざわざ貴重な水を使って調理せずとも焼くだけで食べられるよう
になっています。紫色のいも……『さつまいも』という名前なんですが、そのさ
つまいもなんか、とても甘くて美味しいんですよ。いっそ芋粥にしてもいいかも
しれません」

「は、はぁ……」

「鮎の燻製と鮭とばも、そちらの都合の良いように分けて下さい。あぁ、あと、
ぬいさんに一つ」

「え?……あ、は、はい!」
 

唐突に名指しされ、声を上ずらせながら返事をした彼女に、綱吉は安心させるよ
うに笑った。
 

「不躾な質問になりますが、母乳が出ずにお困りのようですね。今ここで何か食
べたとしても、すぐには母乳は出ないでしょう。お子さん―――――花ちゃんに
は、母乳の代わりに牛の乳を飲ませます。そのために牛を番いで連れて来ました」

「え……?」

「無事に初産を終えた牝牛で、仔牛とは離しましたが、もちろん乳自体はまだま
だ搾ることが出来ます。また、運の良いことに、今、すでに牝牛のお腹の中には
子供が居ます。その子も含めて、計三頭の牛を譲るということですよ。他にも、
母親の母乳が出なくて困っている家があると聞きました。一刻を争いますので、
こんな時間ですが、すぐに声を掛けて下さい。今から牛の乳を搾ります。えぇと、
場所は……」

「も、もちろんこの家で結構です!!」
 

唖然とすることしか出来ずにいる妻に代わり、慌てて返事をした村長は、がくが
くと無様に震える身体に鞭打ってその場へとひれ伏した。
古びた床板の上に、ぼたぼたと涙が落ちる。
 

「ありがとうございます!!本当に、ありがとうございます………っ」

「や、根本的な解決にはなってませんけd」

「ありがとうございます!!!」

「……あ、ありがとう、ございます!!ありがとうございます!!!これで花は
助かります!!!」
 

村長が泣いている。その妻も泣いている。
事の成り行きを見守っていた喜作の涙腺も両親につられて緩み、奥の部屋に寝か
せられているらしい赤子までもが弱々しくぐずり始めた。
 
 
 

何やら洒落にならない事態に陥ったような気がしなくもないが
……すぐに戻れる、よな?
 
 
 
 
 
END
 
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